IWAKUMA RIKIYA
岩熊力也 / 画家
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霖雨
GALLERY KOBAYASHI
2010



  
霖雨01 終の棲家、呼びかけても届かぬ声 F130 2009


  
霖雨02 鷹は死すとも穂はつまず、老戦士もまた口を噤む。魚は少年を背に山を越え、古の神々は懸崖で微笑む。F150 2009



霖雨03 犬猿互い譲らず、仏法僧鳴りを潜める。空から来た人地上にとどまり、そしてまた春が来る。F130 2009



霖雨04 宿敵再度相まみえる。世界の終りでほくそ笑むマヤ人 F130 2009



霖雨

2009年夏、私はリトアニアをおとずれたのだった。リトアニアとは雨という意味であった。そこで知り合った人々、アーティスト、そしてその美しい風景を前にして、彼らの郷土への愛をたっぷりと胸に染みわたらせたのだった。

帰国後しばらくして私に訪れたのは、郷土愛ではなく、長年勤めたアルバイトを辞職せざるを得ないという現実であった。この国の人間関係はぎすぎすしていて、郷土愛などと言っている余裕は無い。

生活苦は覚悟のうえで、しばらく山梨のアトリエに籠る事にした。
絵画と競馬と焚火の日々。
素戔嗚が私の心をとらえる。
手足の爪を剥がされ共同体を追放された素戔嗚は、いつまでも降り止まぬ雨の中、ボロ蓑一枚を身に纏い長い旅にでる。そして旅の最後に彼はこう囁くのだ、「ああ、私の心は清々しい」と。

旅の途上で彼は鼻やら尻から食材を取り出し調理したオオゲツヒメを失礼な奴と殺害。その後娘欲しさに八岐大蛇を虐殺、晴れて英雄となり嫁をめとる。
無茶苦茶ではある。しかしこんな乱暴な男が我が国最初の短歌を口にする。
にわかに私の中の郷土愛が疼きはじめる。

この夏もまた暴力的な雨が列島をずぶ濡れにした。
あらゆるものを腐蝕させていく水。
色褪せていく風景。
先祖伝来の土地を湖底に沈めるなと声を張り上げていた住民が、今度は早くダムの底に沈めてくれと懇願している。
渋谷円山町のラブホテル街を築いたのは、かつてダムの底に沈んだ村からの移住者たちだという。そこから流れだした欲望の奔流が今度は谷底の渋谷駅前スクランブル交差点を沈めている。
不思議な日本の私たち。
私の郷土への愛もまだ雨の中で煙ったままだ。
いつの日にか私にも清々しさは訪れるのだろうか。
そんな私が夏から秋、そして冬へと移りゆく山中のアトリエの静けさの中、変転し続ける郷土の風景と素戔嗚の道行きに想いを馳せながら、ひたひたとしたたる水と共に制作した絵画の連作が「霖雨」である。

2009年秋